心月公御祭茶に参加して
松親会 菊地洸人
 四月十二日、春の陽光が心地よく降り注ぎ、季節の移ろいを肌で感じるようになったこの日、日本女子大学の桜楓会館にて「心月公お祭茶」が厳かに執り行われ、私も身の引き締まる思いで参加いたしました。
 例年であれば御宗家様お宅にて執り行われますが、今回はご宗家様の特別なご配慮により、私たちもこの貴重な席に同席させていただける運びとなりました。そのお気持ちに深く感謝申し上げるとともに、改めてこの流儀の一員としての自覚を新たにいたしました。
 心月公は、幕末から明治という時代の大きな転換期において松浦家のご当主を務められた方であり、また鎮信流の中興の祖として、その名を今に残す存在です。特に、文明開化という日本古来の文化や伝統が大きく揺らいだ時期にあって、心月公はその精神と形式の存続・普及に大いに尽力されたと伝えられております。今ある鎮信流の姿は、まさにそのご努力の結晶なのだと、改めて実感いたしました。
 当日は、床の間に心月公の堂々たる御画像が掛けられ、その手前には簡素ながら凛とした佇まいの祭壇が設えられ、場全体が厳かな空気に包まれておりました。
収様が丁寧にお点てになったお茶を、奥方様が静かに祭壇へとお供えされ、香を焚いて深く礼をなさるご様子を、末席から拝見致し、敬意の念を新たに致しました。
さらに今回は、ご宗家様のご厚意により、私たち参加者も心月公へのお参りを許されるという特別な機会をいただきました。畏れ多くも、心月公の御前にて拝礼し、その御遺徳に想いを馳せることができたことは、私にとって忘れがたい経験です。
今は心月公の時代さながらに社会が変化し、人々の価値観も移ろいも激しくなっている様に感じます。
 心月公のように文化と精神性を次代へと継ごうとされた方々の存在に、あらためて深い畏敬の念を抱かずにはいられません。
そして私自身も、その精神の万分の一でも受け継ぎ、将来的には次の世代へと伝える役割を担っていけたらと、心から願っております。