柳営茶会に参加して
松親会 松本肇子
去る10月14日(土)第31回柳営茶会が文京区護国寺で開かれ、武家茶道四流派が思い思いの趣向を凝らし、名残の茶を楽しみました。糸のような微かな細い雨が降る中、鎮信流は月窓軒において薄茶でお客様をお迎えしました。

門人にとっても、ご宗家心づくしの道具組は茶会の楽しみの一つです。広い床を飾った鮮やかな花鳥の軸、又、貞明皇后から拝領の唐銅の透かしが優美な花入には、富士山をかたどった枝と秋の花が生けられました。皇后陛下の哀悼のお気持ちがそのまま佇まいとなり、美しさが匂い立つようでした。
私は、午後から点前と半東を仰せつかりました。柳営茶会での点前は二度目ですが、始めると手順ばかりに気をとられ、お客様に満足いただけるお茶をお出しできたでしょうか。思い出したのが午前の席、陰点てのお茶の美味しかったこと。香豊かな甘さを味わいながら、思わず笑みがこぼれました。その席でご宗家は点前の手順よりも表には出てこない仕事こそ大切であると話されました。 きれいな点前を求めるだけでは単なる遊芸でしかない、見られていなくても自らを律して修練することが肝要である。本来、武士の強さとは戦うことではなく、強く正しい心の在り方なのですよ。御家流で茶道を始められたという若い男性がお正客でしたが、その方の心にもきっと響いたことでしょう。水屋の皆様がお客様のことを思い、見えないところで静かにお茶を点てる姿にこそ、本来の茶の心が宿っているのかもしれません。
平戸との遠い縁がきっかけで、私が鎮信流の門を叩いたのは4年前。日本女子大に心月公が寄贈された茶室、静寧亭での稽古が始まりでした。それまで限られた人々の間のみで行われていた鎮信流の茶を、明治になり女性はじめ一般にも門戸を開いたのが心月公です。その茶室にこの名前を付けられたことの意味を改めて思いながら、心をこめてお客様に一服のお茶を差し上げることができるよう、静かに丁寧に、修養に努めてまいりたいという気持ちを新たにいたしました。